知っておきたいこと 超省エネ住宅

超省エネ住宅で失敗しないために知っておきたいこと。【後編】

投稿日:2017年7月7日 更新日:

日中はだいぶ気温があがるようになってきましたね。
今、室温は25.5度 湿度58%ぐらいです。快適です。

外壁の通気層の温度は26〜28度 湿度は70%前後なので
窓を全開するのは控えたほうが気持ちいいですね。

輻射式冷暖房(放射冷暖房)はつけっ放しです。
使いこなしに少しコツがいりますが、静かですし
つけているのを忘れる程自然で
他には代えがたいシステムだと思います。

使い方のコツは改めて紹介したいと思います。


さて、前回の投稿からの続きです。

意を決して、ドイツのパッシブハウス、スイスのミネルギーハウスを
この目で見て、体感することを目的に新婚旅行(!?)にいくことにしました!

2009年11月のことでした。

妻は初めての海外旅行で、申し訳ない気もしましたが学ぶにはこれ以上ないチャンスでした。

・「快適さのものさし」を探すこと。

・そして、日本で再現するヒントを探すこと。

CLT(Cross Laminated Timber)の一種であるリグノトレンド工法を採用して、透湿と蓄熱を兼ね備えた土壁内装による、日本の気候風土に根ざした超省エネ住宅のモデル建築をなんとしても実現する!!!

という一部、使命感のような気持で向かいました。

建築物理学であるヨークさんと、日本からETH(スイス・チューリッヒ工科大学)にこのプロジェクトの研究に参画していた後藤さんにスイスのチューリヒとドイツのハノーファーを拠点に先進的な建築を案内してもらいました。

リグノトレンドの工場見学、スイスの2000W Societyの展示、美しいチューリヒの町並みや美味しい食事。

何より、実物のパッシブハウスにはその迫力と快適さに圧倒されました。

30cm以上ある壁の厚み。2mを超えるサイズのトリプルガラス窓の迫力。

そこにしつらえられたシンプルで機能的ながら木や石などの自然の質感にあふれた内装。

洗練と豊かさが組み合わさった、あたたかみのある快適な空間は私達に鮮烈な印象を与えてくれました。

「ああ、こんな家なら本当に住んでみたいね。」

そう夫婦で確認することができて、とても有意義な旅だと感じていました。

私達が訪れたのは11月でしたが気温は一桁台の日もありました。
パッシブハウスやミネルギーの住まいがいかにあたたかいかもよくわかりました。

その旅の終盤に、ヨークさんの大学時代の先生が手がけられた環境建築の「はしり」とも言われているご自宅を見学させてもらいに伺った時のことでした。

ヨークさんと今回のプロジェクトの意義を確認する会話の中で、何気ない質問がありました。

『ところで、家を建てる目的は何なのかな?』

「えっ!?」

正直、ヨークさんが何を言ってるのか意味がわかりませんでした。

・地球環境への負荷を劇的に減らした

 カーボンニュートラル

 もしくは

 プラスエネルギーとなる

 住まいの実現。

・リグノトレンドと木質繊維断熱材

 そこに土壁を組み合わせた

 透湿性の建築材料の採用。

・上記の材料構成について

 非定常方のシミュレーションをおこなうことで

 壁の内部で結露するリスクがないことを事前に明らかにする

 新しい建築設計プロセスの実証。

・リグノトレンドという新しい木質構造(CLT)の実証

 そこに国産の杉材を使うことによる

 日本の森林資源の活用。

・スイスのミネルギー・P ECOという世界最高水準の省エネ基準

 断熱材に化石由来の材料を利用しない基準(ECO)の

 同時達成。

・Swiss Building Componentsが今後日本で展開する

 上記の建築事業のモデル建築。

等々、まさに今この道中一緒にこのプロジェクトの
数々の意義を話し合ってきた所だったからです。

「だから、、このプロジェクトそのものが
 実現する価値があると確認してきた
 と思うんだけど。。。」

『ははは、それはそうだけど、
 大事なことは家を建てる目的じゃないかな?

 家を建てることが目的じゃないだろ?

 超省エネ住宅を建てることが
 家を建てる目的なんて
 ナンセンスだと思わないか?』

(・・・・・・・・・。そ、そういうことかーーーっ!!!)

しばし沈黙・・・。妻にすぐ訳して伝えることができませんでした。

なぜなら、自分の中では完全に建てることが目的になってしまっていたからです。

『このプロジェクトが社会的に、事業的に意義のあることは間違いない。

でも、それが二人にとって家を建てる目的であってはいけない。

あくまで、二人やその家族が実現したいことがあって、そのために家がある。

家そのものは目的じゃなくて手段だから。

ドイツがパッシブハウスをスイスがミネルギーを推進していることは社会的に意義がある。

きっと日本でも超省エネ住宅を推進することになると思う。

でも、それだって目的じゃない。

家を建てようとする時、その家族ごとに目的があるはずなんだ。

二人にとってそれが何なのか、気になっていたんだ。

実は、最後にうちのボスの家を案内しようと思ったのは、省エネ住宅のモデルということ以上に、二人にとってそのことを考えるヒントになれば、と思ったからなんだ。』

今回旅の中で一番衝撃を受けた瞬間でした。

ヨークさんの上司の家は、ドイツの住まいとしてはコンパクトで、1階が事務所、2階が住宅という構成でした。

それでも、敷地は広く、ダイレクトゲイン(日射取得)に優れたデザインが最大限にとりいれられていました。

輻射式冷暖房や熱交換換気など、選びぬかれた最小限の設備。

コンパクトな機能部としっかり確保されたプライバシー。

それは、地球環境だけでなく家族への配慮にあふれた住まいでした。

そして、妻にようやく伝えることができました。

「自分たちにとってどんな暮らしが豊かだと言えるのか。
どんなことを実現したいのか。

それを置き去りにして僕は家を建てようとしていた。

ヨークさんは、それは違うよと教えてくれた。

二人が実現したいことがあって、それは超省エネ住宅だからこそ実現できることがなんなのか。

帰ってからもう一度考えようか。」

そのことを確認してから、ようやく私達夫婦にとって本当の家づくりがスタートしたように思っています。

皆さんはいかがでしょうか。

特に、超省エネ住宅にハマってしまった方は

・環境に良いから

・経済的だから

・健康に良いから

・快適だから

等、外発的な理由や動機で、それを選択していないでしょうか。

私が、ここ10年の日本の省エネ住宅政策を見て感じる違和感はそこにあります。

「省エネ住宅を建てることを、いかに目的化するか」

に力点が置かれていると思うからです。

・環境問題
・家計節約
・健康増進

これらは大切なことです。

しかし、ヨークさんが指摘してくれたようにこれらは前提であって

そもそも、住まいを建てる目的は何なのか。

それがなぜ、自分たちが豊かさを感じることに結びついているのか
という本質的な問いこそが、必要なのだと思います。

そこを抜きにして、家の性能や設備を議論することは、
意味がないとは言いませんが、

ゴールがわからないのにクルマや、クルマのエンジンや燃費を一生懸命考えているのと同じです。

燃費の良い快適なクルマを所有することがステータス、というのと同質です。

超省エネ住宅だからこそそうなってしまいがちだという、パラドックス。

現在様々な省エネ住宅に関する本が出てくる中でも、
ほとんど触れられていない部分だと考えています。

-知っておきたいこと, 超省エネ住宅

執筆者:


  1. m-oda より:

    まさにその通りですね。
    達成感を得るためだけに、材料を選定し家を建てるのではないですよね。
    とても共感できます。
    車を買うのも、旅行に行くのも、それぞれ目的があります。もっとシンプルに家づくりを考えたいと思います。
    ありがとうございます、とても参考になります!

    • phe01902 より:

      m-odaさん
      コメントありがとうございます。共感いただけて嬉しいです。

      そうですね、家づくりは目的ではなく、手段ということが
      家族で共有できると取捨選択がしやすくなるように思います。

      パッシブハウスなどの超省エネ住宅は、
      世界的なトレンドであるエネルギー消費や価格のリスクを最小限にしつつ
      ライフスタイルの選択肢が増えるところが最大のメリットとと感じています。

      なにか参考にして頂けることがあるなら嬉しいです。

      m-odaさんの家づくりが素晴らしいものになりますように☆

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